判例から学ぶ名誉毀損・真実性・相当性の完全ガイド

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弁護士大熊 裕司
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はじめに

インターネットと SNS が生活の一部となり、誰もがワンクリックで情報を広められる時代になりました。その反面、思わぬ発言が名誉毀損とみなされ、訴訟の当事者になるリスクは専門家に限らず一般ユーザーにも及んでいます。名誉毀損が違法かどうかを左右するカギは、(1) 示した事実が客観的に真実かどうかを測る「真実性」と、(2) 発言時に真実と信じる合理的理由があったかを問う「真実相当性」の2要件です。本稿では、この2つを中心に名誉毀損の法的構造と実務上の注意点を解説します。

1 名誉毀損と違法性・責任の阻却構造

名誉毀損とは、公然と他人の社会的評価を下げる事実を示す行為をいい、原則として不法行為となり損害賠償や刑事罰の対象になります。ただし公共性の高い情報を発信した場合、次の2段階の判断に従って「どこまで法的責任を免れるか」が区別されます。​​

(1) 真実性が立証されたとき
示した事実そのものが客観的に真実と認められる場合は、原則として行為の社会的相当性が肯定され違法性が阻却されます(但し、下記のとおり、公共性、公益性の要件も必要となります)。したがって民事・刑事とも「そもそも違法ではない」と扱われ、損害賠償義務や刑事罰を受けません。

(2) 真実相当性が認められたとき
公表した事実が真実であるとまでは証明できなくても、発言当時に合理的な裏付け取材を尽くし「真実だと信じるに足りる相当な理由」があった場合、行為の違法性自体は残りますが 故意または過失が否定されるため責任が阻却されます。民事では不法行為責任を負わず、刑事でも故意を欠くため処罰を免れるという位置づけです。

このように、真実性と真実相当性は「違法性を消すか」「責任を消すか」という効果の範囲が異なる点に注意が必要です。

2 真実性の要件と立証対象

真実性とは、発信した事実が「客観的に真実」といえるかを審査する要件です。発言者(記事や投稿の書き手)が立証責任を負いますが、刑事裁判のように一片の疑いも残さない水準までは要求されず、「社会通念上ほぼ疑いがない」と評価できれば足ります。​​

(1) 立証の対象
① 摘示した事実の重要部分が真実であったか
② 事実が公共の利害に関わる内容か
③ 公表が公益目的を有していたか

(2) 証明の程度
最高裁は「刑事の有罪立証ほど厳格ではなく、合理的な証拠で十分」と判示しています。たとえば公文書・公式データ・一次取材メモなど複数資料が整合すれば真実性は肯定されやすくなります。

(3) 重要部分の考え方
報道全体のうち社会的評価に決定的な影響を与える「重要部分」が真実なら要件を満たす余地があります。金額や日付の軽微な誤差より、不正行為の有無そのものが重視されるというイメージです。

(4) 具体例でイメージを掴む
① 市議会議員が公費を私的旅行に流用したと報じたケース
領収書コピー、議会議事録、議員本人の録音インタビューを提出できれば真実性はほぼ立証できます。
② 芸能人が脱税したと SNS で断定したケース
まだ国税の更正決定も起訴事実もない段階なら真実性の証拠は存在せず、要件を充たせません。
③ 「大手メーカーで粉飾決算の疑い」と報じたケース
疑惑段階であっても、監査法人の調査メモや内部告発文書があれば「疑惑が存在する事実」は真実として認められる可能性があります。

(5) ワンポイント
真実性は「口頭弁論終結時点で真実だったか」で判断されるため、報道時点で真実性を証明できる証拠がなかったとしても、その後、証拠が入手できれば真実性の抗弁が認められる余地はあります。

3 立証範囲と重要部分の考え方

真実性を議論するとき、よく問題になるのは「どこまで正確に証明しないといけないのか」という線引きです。判例と学説が採る立場は、一言でいえば「社会的評価に決定的な影響を与える“重要部分”さえ真実なら足りる」というものです。これを「実質的真実(サブスタンシャル・トゥルース)の原則」と呼ぶこともあります。​​

3-1 重要部分とは何か
(1) 社会的評価を左右する核心事実ーたとえば「不正行為の有無」や「汚職の構図」などーが該当します。金額や日付の細かな誤差、脇役の肩書違いなどは通常“付随部分”として扱われます。
(2) 核心が複数ある場合、その主要な柱がすべて真実である必要があります。柱の1本でも折れると真実性全体が揺らぐ恐れがある点には注意が必要です。

3-2 判例のライン
最高裁は、摘示内容の中で「社会的評価に本質的影響を及ぼす部分」を取り出し、そこが真実なら細部の誤りは直ちに違法性を導かないと判示しています。逆に、その部分が虚偽であれば他が正確でも真実性は否定されます。

3-3 実務的な見分け方
(1) 報道の見出し・リード文ー何を社会に訴えたいのかが集約されているので、ここが「重要部分」になりがちです。
(2) 被害者の名誉がどの点で傷つくのかー評価の中心がどこかを逆算すると重要部分が見えてきます。
(3) 立証コストの高低ー重要部分ほど証拠集めの負担が大きくなるのが通常で、編集会議でも真っ先に確認されます。

3-4 具体例でイメージ

  • 企業の粉飾決算記事で「売上水増し額が150億円」と報じたが、実際は130億円だった場合
    ➡粉飾決算という核心が真実なら、額の誤差は真実性を揺るがさない可能性が高い。

  • 医師が過度な投薬で患者を死亡させたと報じたが、実際は死亡までは至らず後遺障害だった場合
    ➡死亡の有無は社会的評価を大きく左右するため“重要部分”。誤りなら真実性は否定される可能性が高い。

3-5 まとめ
重要部分だけでも裏付け資料を厚くし、付随部分は「推定」「およそ」「おおむね」と控えめに書く。これが実務でトラブルを減らすポイントと言えます。

4 相当性の要件と判断枠組み

相当性は「発言者が示した事実を真実と信じるに足りる合理的理由」の有無を問う要件で、真実性の立証が不十分でも違法性を阻却し得る“セーフティーネット”として機能します。以下では、裁判所が実際に用いる判断枠組みを可能な限り具体的に整理します。​​

4-1 判断の基本構造

裁判例は大きく4段階で相当性を審査します。
(1) 公共性・公益性 (2) 取材方法の相当性 (3) 表現態様の相当性 (4) 手続的相当性

この4点は互いに独立しつつ相互補完的に機能し、総合評価で結論が導かれます。

4-2 公共性・公益性

(1) 公共性は「情報が公共の利害に関わるか」を問う前提要件です。政治家の資金スキャンダルや消費者被害の告発など、社会一般に開示する意義が高い場合は、公人・準公人に限らず民間企業や団体に対する指摘でも肯定されやすい傾向があります。ここで否定されれば、他の要素が優れていても相当性は成立しません。
⑵ 公益性は、公益目的を図る意図を有していたかという条件です。内心の問題にもなりますが、公共性が認められるような場合は、公益目的も有していたと推定されることが多いです。

4-3 取材方法の相当性

取材方法は最重要ポイントといわれ、判例は次の観点を重ねてチェックします。
(1) 情報源の数と独立性:匿名供述のみか、複数独立ソースか。
(2) 情報源の信頼度:公式記録か、専門家か、当事者か。
(3) クロスチェックの有無:資料照合、現場確認、反対当事者への打診を行ったか。
(4) 緊急性:報道遅延で公益が損なわれる事情があったか。

取材過程を裏付けるメモや録音は、後の裁判で「当時実在した合理的根拠」を示す直接証拠となります。

4-4 表現態様の相当性

表現態様の相当性は「視聴者・読者が誤って事実を確定視しないような配慮」があったかを判断します。
(1) 疑惑段階の強調:見出しや本文で「疑い」「可能性」など不確定性を示したか。
(2) 論評部分と事実部分の区別:意見・推測を明確に分離したか。
(3) 煽情性の抑制:過度な形容詞や断定口調、過激な写真の使用は減点要素。

4-5 手続的相当性

手続的側面として、(1) 本人や関係者から意見を聴取する「反論の機会」の付与、(2) 誤報判明後の速やかな訂正・謝罪、(3) 編集会議など社内チェック体制の有無が評価対象になります。これらは事後対応であっても、相当性を補強する事情となり得ます。

4-6 相当性を肯定・否定した主要判例

(1) 昭和44年6月25日 最高裁大法廷判決(刑集23巻7号975頁・裁判所ウェブサイト・夕刊和歌山時事事件)
地方紙が「」と題する記事で私人の汚職疑惑を詳述し、名誉毀損罪で起訴された事案です。最高裁は「摘示事実が真実と証明できなくても、確実な資料に照らして真実と信じる相当な理由があれば故意が阻却される」と判示し、原判決を破棄しました。ここで初めて“真実相当性による故意阻却”が明確に示され、現在の相当性論の礎となっています。​

(2) 平成14年1月29日 最高裁第三小法廷判決(民集56巻1号185頁・裁判所ウェブサイト・通信社配信記事事件)
地方紙が通信社から配信された記事をそのまま掲載し、私人の犯罪疑惑を報じたところ名誉毀損で提訴された事件です。最高裁は「通信社の記事というだけでは信頼性は足りず、自社で裏付けを欠いた」として真実相当性を否定しました。一次情報を取らずに転載しただけでは「相当な理由」とは言えない、と明確に示した判例です。​

(3) 2011年4月28日 最高裁第一小法廷判決(民集65巻3号1499頁・裁判所ウェブサイト・共同通信配信記事事件)

地方紙が通信社から配信された記事をそのまま掲載し、医師が医療過誤により患者を死亡させたと報じられた名誉毀損事件です。Xは記事を掲載した地方紙などに損害賠償を請求しました。

最高裁は、地方紙の責任について判断するにあたり、原審(控訴審)が「通信社が配信記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があった」と認定していることを前提としました(この最高裁判決では、通信社自体の責任について改めて判断していません)。

その上で、地方紙については、以下の点を総合的に考慮し、配信記事を真実と信じたことには相当の理由がある(真実相当性)と判断し、損害賠償責任を否定しました。

  • 通信社と地方紙(加盟社)との間には、取材、記事作成、配信、掲載に至る一連の過程で「報道主体としての一体性」が認められること(加盟社は通信社の経営にも関与し、配信記事を原則そのまま掲載する体制であったことなど)。

  • このような一体性がある場合、通信社が記事内容を真実と信じたことに相当な理由があれば、地方紙も同様に真実と信じたことに相当な理由があるとされるべきであること(地方紙が配信記事の真実性に疑いを抱くべき特段の事情がない限り)。

  • 新聞社が通信社を利用する報道システムは国民の知る権利に資するものであり、配信される膨大な記事全てについて地方紙が独自に裏付け取材を行うことは現実的に困難であること。

この結果、地方紙については真実相当性が認められ、名誉毀損による不法行為責任は成立しないと結論付けられました。

これら3件を比較すると、真実相当性の可否は

  1. 取材範囲の広さと裏付け資料の質

  2. 情報源の信頼性・独立性

  3. 見出しや本文の抑制度

  4. 反論機会の付与や誤報後の対応

という四つの軸で大きく左右されます。一次情報が不足する場合は「疑い」「可能性」といった抑制的表現でリスクを抑え、断定的な見出しを用いるときは裏付けを二重三重に固めることが不可欠です。

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