フリーランス必読!違約金トラブルと報酬減額の禁止

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弁護士大熊 裕司
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【Q】インフルエンザで撮影を休んだら、違約金を請求されました。支払う義務はあるのでしょうか?

私はフリーランスのウェディングフォトグラファーとして活動しています。契約書に「やむを得ない事情を除き、撮影を欠席した場合は1日につき2万円の違約金を支払う」と定められていたのですが、先日、挙式当日にインフルエンザと診断され、高熱のためどうしても撮影に行けませんでした。すると後日、依頼主であるプロデュース会社(以下「特定業務委託事業者」といいます)から「やむを得ない事情には当たらない」として、欠席日数分の違約金を請求されてしまいました。感染症を拡散させるリスクも考慮して欠席したのですが、本当に違約金を支払わなければならないのでしょうか? また、もし支払う必要がなかったとしても、報酬の中から自動的に差し引かれてしまった場合はどうすればいいのでしょうか?


【A】高熱を伴うインフルエンザ感染による撮影欠席は「やむを得ない事情」に該当すると考えられます。そのため、違約金を支払う義務は原則として生じず、さらに報酬から違約金相当額を差し引く行為は「報酬の減額の禁止」に違反する可能性があります。

大筋としては、インフルエンザなどの感染症は不可抗力に近い病気として扱われることが多く、「やむを得ない事情」に当たると判断できる余地は十分にあるでしょう。少なくとも、高熱や感染のリスクが著しく高い状態で撮影業務を遂行することは、依頼主や新郎新婦・ゲストに対しても不利益をもたらす危険があります。したがって、やむを得ず欠席せざるを得ない状況にあったといえます。

さらに、フリーランス新法5条1項2号に定められる「報酬の減額の禁止」(解釈ガイドライン第2部第2章2(2)イなどを参照)に照らし、当該欠席がフリーランスの責めに帰すべき事由ではない場合には、特定業務委託事業者による一方的な報酬カットは、事実上の減額行為として違法となる可能性が高いといえます。

【解説】

1.契約書に「やむを得ない事情」の列挙事由が明記されている場合

まず、契約書で違約金条項が定められており、「やむを得ない事情」として病気・けが等が列挙されているケースを想定します。この場合、インフルエンザなどの感染症に罹患したことは、通常は「やむを得ない事情」に含まれると考えられます。とりわけ、フリーランスのウェディングフォトグラファーの業務は、新郎新婦やゲストなど多数の人と接触する機会が多く、高熱の状態やウイルスの感染可能性が高い状態では、撮影どころか周囲への感染を拡大させるリスクも否定できません。

  • 民法420条(損害賠償の予定)
    違約金条項は一般的に「損害賠償の予定」として機能します。しかし、その前提として、違約金を支払う義務が生じるのは、フリーランス側に帰責性がある場合に限られます。例えば単なる自己都合や怠慢で仕事を放棄したのであれば、条項どおり違約金を支払う義務が生じる可能性があります。しかし今回のように避けられない病気の発症であれば、そもそも契約書上「やむを得ない事情」として免除される余地が高いといえます。

  • 具体例の明示があればなお良い
    契約書上、「発熱やインフルエンザなどで勤務が困難な場合にはやむを得ない事情とみなす」などと明記されていれば、さらに免除が確実になります。この点は、事前に特定業務委託事業者(たとえば撮影プロデュース会社や結婚式場など)と書面で取り決めておくのが望ましいです。

2.契約書に列挙事由が明記されていない場合

次に、契約書には明確に「病気」「けが」といった具体的事由が書かれておらず、単に「やむを得ない事情」としか書かれていないケースを想定しましょう。この場合でも、口頭やメールなどで「重大な病気や怪我の場合はやむを得ない事情に当たる」旨の説明が事前になされていたり、業務の内容からみて欠勤が合理的だと判断される場合には、やはり「やむを得ない事情」に該当するといえます。

ウェディングフォトグラファーの業務は、披露宴や挙式の進行を撮影するため、ゲストとの距離が近くなる場面が非常に多いです。インフルエンザの症状が重い状態でカメラを構えると、集中力が途切れやすくなり、思わぬ機材トラブルや転倒事故などにつながるリスクも考えられます。また、屋内で大勢の人と接触する機会が多い以上、他者に感染させる可能性も高まります。これらは依頼主や新郎新婦にとって大きなリスクであり、フリーランスである撮影者個人の健康リスクも含め、「無理をして出勤する方がむしろ問題が大きい」と言えるケースが少なくありません。

したがって、契約書に具体的に病気やけがが例示されていなくとも、「感染症により撮影業務を安全かつ円滑に行うことができない」ほどの状態であれば、客観的にも「やむを得ない事情」に該当すると考えられます。

3.違約金の相殺と「報酬の減額の禁止」

(1) 報酬からの一方的な差し引き

フリーランス新法上、「やむを得ない事情」による欠勤の場合は、フリーランスの責めに帰すべき事由がないと評価されます。特定業務委託事業者が一方的に違約金相当額を報酬から天引き(相殺)してしまう行為は、実質的には報酬を減らすことと変わりありません。

  • フリーランス新法5条1項2号
    同条項では、特定受託事業者(フリーランス)に責められない理由で業務を実行できなかったり、やむを得ない事情があったりする場合に、特定業務委託事業者が報酬を減額することを禁止しています。これは「減額」と名がついていても、差し引き相殺といった方法であっても同じです。つまり、契約書であらかじめ「違約金として報酬から控除する」などと取り決めていたとしても、やむを得ない事情に基づく欠席にまで機械的に適用することは、フリーランス新法違反となる可能性が高いのです。

  • 解釈ガイドライン第2部第2章2(2)イ
    このガイドラインでは、「報酬の減額の禁止」は名目や手段を問わず適用されることが明記されています。つまり「ペナルティ」「違約金」「罰金」など名称が異なる場合でも、実質的に報酬が減らされるならば、禁止行為に該当するとみなされる恐れがあるわけです。

(2) 契約期間と適用範囲

なお、フリーランス新法の規定がすべての契約に無制限に適用されるわけではありません。法律の対象となるのは、「特定業務委託事業者」と「特定受託事業者」(フリーランス)との間で結ばれる一定の要件を満たす業務委託契約です。具体的には、契約期間が1か月以上かどうかなど、いくつかの要件があります(施行令1条参照)。もし自分がこの要件に該当する形で業務を委託・受託しているのであれば、報酬の減額禁止のルールが適用される可能性があります。

もちろん、たとえ厳密にフリーランス新法の適用対象外であったとしても、民法の一般原則(契約自由の原則・信義則・権利濫用の禁止等)や、労働法規の類推解釈などを通じて、過度に不合理な違約金請求は無効または減額される場合があります。したがって、仮にフリーランス新法の直接適用を受けない事案でも、「やむを得ない事情での欠席に対して高額の違約金を請求する」という行為が正当化されるとは限りません。

4.もし違約金を請求・相殺されてしまったら

実際には、撮影後の報酬支払段階で「違約金を差し引いた残額しか支払わない」と一方的に告げられるケースもあり得ます。そのような場合には、以下の点を検討・主張するとよいでしょう。

  1. 欠席が「やむを得ない事情」に該当する具体的理由

    • 医師の診断書(インフルエンザや高熱の診断日、症状の程度が分かるもの)

    • 欠席せざるを得なかった客観的事情(たとえば40度近い発熱や周囲への感染リスクが高いなど)

  2. 「違約金相当額の相殺」が事実上の報酬減額に当たること

    • フリーランス新法やガイドラインに基づく「報酬減額の禁止」違反の可能性

    • 名目や手段にかかわらず実質的に報酬が減らされるなら違反行為となり得る

  3. 契約書の内容および事前の説明との整合性

    • 契約書や事前打ち合わせで「病気やけがの場合は不可抗力として欠席を認める」といった趣旨の記載・説明がないか

    • 特定業務委託事業者が口頭やメール等で「やむを得ない事情には病気も含まれる」と述べていた証拠(メール、LINEの履歴など)

これらを整理したうえで、特定業務委託事業者に対し「そもそも違約金の発生する場面ではない」「一方的な報酬差し引きは違法である」という趣旨を改めて伝え、請求や相殺が不当であることを主張する必要があります。場合によっては弁護士等の専門家に相談し、内容証明郵便などの正式な手続をとることで、適切な返還や補償を求めることも検討できます。

5.まとめと今後の対応

  • 欠席理由がインフルエンザなどの感染症の場合は、通常は「やむを得ない事情」とみなされる可能性が極めて高い。

  • 契約書に具体例が挙げられている場合はもちろん、そうでない場合でも病気や事故が不可避であることを示せば該当性は認められやすい

  • フリーランス新法上の「報酬の減額の禁止」に違反して、特定業務委託事業者が一方的に違約金相当額を差し引くことは、法的に問題となる。

  • 当該契約がフリーランス新法の適用範囲内かどうかは、契約期間や事業者の規模等を確認する必要がある。しかし、たとえ適用範囲外でも、民法などの一般法理に基づき不合理な違約金条項は無効化・制限される可能性がある。

もし実際に違約金請求を受け、報酬の中から自動的に控除されてしまった場合には、まずは自らの欠席がやむを得ない状況であったことを明確に示す資料を用意しましょう。そのうえで、請求や相殺が不当である旨を正式に通知し、返還を求めたり、以後の撮影契約内容を見直したりといった対応を検討するのが望ましいです。

【参考条文・ガイドライン】

  1. 民法420条(損害賠償の予定)

    • 契約であらかじめ損害賠償額を予定した場合でも、それが常に有効とは限らない。違約金自体が過度に高額であれば、裁判所の判断で減額される場合がある(民法420条の2など)。

  2. フリーランス新法5条1項2号(報酬の減額の禁止)

    • 特定受託事業者(フリーランス)に責めがないにもかかわらず、特定業務委託事業者が報酬を減額することを禁止している。名目や時期を問わず、実質的に報酬が下がれば違反となる可能性がある。

  3. フリーランス新法施行令1条

    • フリーランス新法の適用対象となる契約期間や業務の類型などについて規定している。

  4. 解釈ガイドライン第2部第2章2(2)イ

    • 報酬の減額行為の解釈について詳細に説明しており、形だけでなく実質的な減額かどうかを見ることが重要と述べられている。

【結論】

インフルエンザのように通常の業務遂行が困難な病気によって撮影を欠席した場合、契約書の「やむを得ない事情」に該当すると考えられるのが一般的です。したがって、違約金の支払義務は原則として生じません。にもかかわらず、特定業務委託事業者が報酬から違約金相当額を差し引く行為は、フリーランス新法で禁止される「報酬の減額」に該当する可能性が高く、違法であると評価されるおそれがあります。実際に請求や相殺がなされた場合は、診断書や客観的な事情を示す証拠を整理して、違約金発生の前提がないこと、報酬の一方的な減額も認められないことを強く主張する必要があります。

以上のとおり、病気等でやむなく欠席せざるを得ない場合には、違約金が発生しないばかりか、報酬カットのような形で実質的に不利益を受ける行為は法的にも問題があるというのが本件に関する結論です。お困りの際は早めに専門家へ相談するなどして、適切に権利を守る行動を取られることをおすすめいたします。

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