SNS担当者の注意点及び炎上対策

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弁護士大熊 裕司
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1.SNS担当者の重要性とリスク

1-1.SNS担当者の役割

企業や公共機関などにおいて、SNS担当者は対外的な情報発信とユーザーとのコミュニケーションの窓口を担っています。具体的には以下のような役割が挙げられます。

  • 情報発信・広報
    新商品やサービス情報、キャンペーン、イベント告知、企業の理念・活動報告などをSNSを通じて発信し、認知度やブランドイメージを高める。

  • ユーザーサポート・問い合わせ対応
    SNSのコメントやダイレクトメッセージを通じて寄せられる問い合わせやクレーム、フィードバックに応える。時には企業の窓口としてクイックレスポンスが求められる。

  • ブランド構築・コミュニティ育成
    ユーザーとの双方向コミュニケーションを通じて、ファンコミュニティを拡大し、企業やブランドへのロイヤルティを育てる。

SNS担当者は「企業の顔」としての責任が重く、発信した情報や対応の仕方によって企業イメージが左右される可能性が高いポジションです。

1-2.SNS炎上リスクの増加

SNSを活用するメリットが大きい一方、近年はちょっとした投稿がきっかけで“炎上”し、企業や組織が大きな損害を被るケースが増えています。背景には以下のような要因が考えられます。

  • 拡散力の増大
    スマートフォンの普及やSNS人口の増加により、情報は瞬時に広範囲へ伝播する。特に不快感や怒りを伴う情報は一気に拡散されやすい。

  • 情報発信のハードル低下
    誰でも気軽にコメント・投稿できるSNSは、取扱う情報へのチェック体制が不十分だと、担当者の一存で誤情報や問題発言を発信してしまうリスクが高い。

  • 企業や有名人への監視強化
    フォロワーが多いアカウントや企業アカウントは、ちょっとしたミスや発言を見逃されにくい。ユーザーの厳しい目が常に注がれている。

このようにSNSの特性と社会的背景が相まって、企業アカウントが狙い撃ちされるケースも珍しくありません。SNS担当者には十分な注意と準備が不可欠です。

2.SNS担当者が注意すべきポイント

2-1.公式アカウント運用ルールの整備

まず、企業内でSNSの運用方針や投稿ガイドラインをしっかり策定することが重要です。たとえば:

  1. 投稿内容の承認プロセス
    担当者の独断で不用意な投稿を行わないよう、上長や広報責任者の承認を得るフローを定める。

  2. 言葉遣いや表現のルール
    差別的・攻撃的・政治的に過激な表現にならないか、事前にチェックできる仕組みが必要。

  3. リスク管理体制
    炎上リスクがある投稿や、クレームが寄せられた場合の対応マニュアルを準備しておく。

  4. アカウント情報の管理・権限設定
    SNSにログインできる人を限定し、パスワードの定期変更や二段階認証などのセキュリティ対策を徹底する。

2-2.公私混同の防止

SNS担当者が管理する公式アカウントと、個人のSNSアカウントを厳密に区別して運用することも大切です。担当者が誤って個人の感情や政治・宗教的見解を公式アカウントから発信してしまえば、大きな炎上を招きかねません。また、スマホ一台で公式アカウントと個人アカウントを同時に管理する場合は「投稿先を誤る」「うっかりプライベートな投稿を企業アカウントでシェアしてしまう」といったミスが起こりやすいため、アカウントを切り替える際は細心の注意を払ってください。

2-3.著作権・肖像権・個人情報の取り扱い

SNS投稿に画像や動画を活用するケースが多いですが、以下の点に留意しましょう。

  • 他者が撮影した写真・イラストを無断利用しない
    たとえWeb上で見つけたフリー素材に見えても、利用規約を必ず確認。権利者の許可が必要な場合は正式に取得する。

  • 従業員や他社スタッフなどを撮影する場合は事前に許可を得る
    肖像権の侵害を回避するためにも、被写体となる人の同意を得ることが基本。

  • 個人情報の取り扱い
    ユーザーから取得した情報やDMの内容を勝手に公開しない。プライバシーに配慮し、公開の可否は慎重に判断する。

2-4.ユーザーとのコミュニケーション

SNSは双方向コミュニケーションが基本です。以下のポイントを守ることで余計なトラブルを回避できます。

  • コメント・メッセージへの素早い返信
    特にクレームや質問にはできるだけ早く誠実に対応し、放置しない。問題が長引くほど炎上に発展しやすい。

  • 正確な情報提供
    不確実な情報はSNSで公表しない。また、キャンペーンやサービス内容に誤解を与えるような表現は避け、必要に応じてFAQを設けるなど明確に説明する。

  • 不要な挑発や論争を避ける
    ユーザーが感情的なコメントをしてきても、担当者は冷静に対応すること。挑発に乗るとさらに炎上を招きかねない。

3.炎上を防ぐための事前対策

3-1.ネガティブ意見・クレーム対応マニュアルの作成

ネガティブなコメントやクレームは、企業イメージを悪化させる一方で、うまく対応すれば企業の誠実さをアピールできるチャンスにもなります。以下のフローを事前に定め、対応マニュアルとして共有しましょう。

  1. 初動対応

    • 担当者がクレームやネガティブ投稿を確認したら、上長や広報責任者に即座に報告。

    • どのように返信するか、返信の可否や内容を社内で協議。

  2. 原因調査・事実確認

    • 問題が自社に起因する場合は真摯に謝罪し、改善策を提示する。

    • ユーザー側の誤解や事実誤認が疑われる場合でも、丁寧に情報を伝え、誠実に対応する。

  3. 公開返信か個別対応か

    • すでに他のユーザーが注目している場合は公開返信も検討し、誤解を解く・改善策を提示するなど透明性を示す。

    • 個人情報やプライバシーが絡む場合は、個別のメッセージやメール対応に誘導し、詳細を直接やりとりする。

  4. 再発防止策の表明と実行

    • 社内での原因究明と改善策の共有を徹底。ユーザーに対して再発防止への具体的アクションを伝え、信頼回復を図る。

3-2.誹謗中傷・虚偽情報への備え

SNS上では、誹謗中傷やデマが一人歩きするケースもあります。特に根拠のない虚偽情報が拡散されると、企業に甚大な被害を与えかねません。以下の対策を検討しましょう。

  • モニタリング体制の強化
    社名やブランド名、サービス名などのキーワードでSNSやネットニュースを定期的に検索し、怪しい書き込みがないか確認する。

  • 専門家への相談
    事実無根の中傷や脅迫を受けている場合、弁護士や調査会社に相談し、法的措置(発信者情報開示請求・損害賠償請求など)を視野に入れる。

  • 迅速な情報発信
    デマが流布された場合、放置すると誤解が広がる一方。早めに公式声明を出し、正しい情報を提示することで被害を最小化できる。

3-3.SNSの「炎上ポイント」チェック

企業アカウントが特に注意すべき「炎上ポイント」は以下のとおりです。

  • 差別・偏見につながる表現
    人種、性別、宗教、身体的特徴などへの差別的表現や、社会的にセンシティブな話題への軽率な言及は大きな炎上リスク。

  • 政治・宗教などイデオロギーが絡むテーマ
    個人の価値観が強く反映されるため、企業としては極力中立の立場を保ち、安易に踏み込まないほうが望ましい。

  • パクリ(盗用)疑惑
    他社や個人のコンテンツを参考にする際、オリジナリティが乏しいと「パクリだ」と批判される場合がある。引用や転載の際は出典を明記し、権利問題をクリアにしておく。

  • 時事ネタの扱い方
    社会問題や事件に便乗したマーケティング(ニュースジャック)が逆に反感を買うこともある。特に被害者のいる事件や事故を安易に商品宣伝へ結びつける行為は厳禁。

4.実際に炎上してしまった場合の対処法

4-1.初動対応と状況把握

  • 社内連携
    まずSNS担当者が炎上を確認したら、広報・経営陣・法務部などにすぐ報告し、対応方針を決定する。

  • 炎上の規模と原因分析
    どの投稿がきっかけで炎上したのか、どの程度拡散しているのか、主に批判している層はどこかなどを整理し、状況を把握する。

4-2.謝罪・説明・今後の対応の明確化

  • 誠実な謝罪と事実説明
    自社が落ち度を認めざるを得ない場合は、速やかに公式声明を出し、謝罪と原因を明確にする。

  • 改善策・再発防止策の提示
    謝罪のみならず、具体的な改善計画を示すことで利用者やユーザーの理解を得やすくなる。

  • アフターフォロー
    実際に改善策を実行し、その経過や結果を再度報告することで信頼回復を図る。単発の謝罪で終わらせず、継続的にユーザーの声を聞く姿勢が重要。

4-3.コメント欄・リプライの制御

  • 批判コメントの扱い
    完全にコメントを閉鎖してしまうと「逃げている」という印象を与えるため、批判への一定の回答ややりとりは必要。ただし、誹謗中傷や暴言に対しては個別のメッセージや削除依頼を検討する。

  • 沈静化を図るタイミング
    一定の説明と謝罪、再発防止策が周知された後でも、一部のユーザーが過激なコメントを続ける場合がある。その際は拡散力が落ち着くまで運用ペースを抑え、慎重に対応することが望ましい。

5.炎上から学ぶブランド保護と信頼構築

炎上は企業や担当者にとって大きなダメージを与える出来事ですが、同時に「何が問題だったのか」「どうすれば再発防止できるのか」を学ぶ機会にもなります。適切な対応を通じて以下のような効果が期待できる場合もあります。

  • ファンとの結束強化
    誠実な対応を行い、問題を解決に導いた場合、一部のユーザーがブランドのファンや擁護者となってくれることがある。

  • 企業の透明性・誠実さの訴求
    ミスがあっても、隠蔽せず速やかに情報を開示し、再発防止策を実行する姿勢は企業の信頼を高める材料になる。

  • 社内体制の強化
    炎上を機にSNS運用や社内の情報共有、承認フローなどを見直すことで、次回以降のトラブルを未然に防げる可能性が高まる。

6.まとめ

SNS担当者は企業にとって「ユーザーとの最前線」であり、情報を発信・管理する重責を負っています。SNSは企業のブランディングを促進する強力な手段である一方で、使い方を誤ると一瞬で炎上し、ブランドイメージを損なう危険性も孕んでいます。だからこそ、以下のポイントを常に意識しながら運用を行うことが大切です。

  1. 公式アカウントの運用ルールとマニュアル整備
    承認プロセスや投稿ガイドライン、炎上時の対応マニュアルを明確化し、社内共有しておく。

  2. 適切な情報管理とセキュリティ対策
    パスワードの厳重管理や二段階認証の導入など、アカウント乗っ取りや誤投稿を防ぐ仕組みを整える。

  3. 著作権・肖像権・個人情報保護の遵守
    他者の権利やプライバシーを侵害しないよう十分に注意し、投稿前に必ず確認を行う。

  4. 双方向コミュニケーションの重視
    コメントやクレームにはできるだけ早く対応し、誠実さと透明性を示す。誤解や不満を放置すると炎上しやすい。

  5. ネガティブ投稿・トラブル対応のシミュレーション
    炎上リスクを想定したシナリオを複数用意し、クレームや誹謗中傷への初動対応や情報発信のタイミングを検討する。

  6. ミスや炎上から学び、ブランド価値を高める
    トラブルを機に社内体制や運用ルールをアップデートし、同時にユーザーとの関係を再構築するチャンスに変えていく。

SNSが急速に発展し、多くの企業や組織が日常的に情報を発信する今の時代、炎上リスクと隣り合わせの運用は避けて通れません。しかし、正しい知識と準備を持って取り組めば、SNSは企業の成長とブランド強化に大きく寄与する強力なツールとなります。SNS担当者は常にアンテナを張り巡らせ、ユーザーや社会の反応に敏感であると同時に、企業のポリシーや法令順守の観点を忘れずに運用していきましょう。

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