飲食店の口コミ対策

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弁護士大熊 裕司
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1.はじめに:飲食店における口コミの重要性

飲食店を探す際に、口コミサイトやSNSを参考にしている方は非常に多いです。実際に「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」などの口コミサイトには、個人の主観的な評価や写真が多数投稿されており、店舗を初めて利用する消費者にとっては情報の宝庫となっています。さらに、近年では「Googleビジネスプロフィール(旧:Googleマイビジネス)」や「Instagram」「X(旧Twitter)」など、さまざまなプラットフォーム上でお店の評判が共有されるようになり、飲食店の良し悪しが短時間で広範囲に伝播してしまう時代です。

こうした口コミは、ポジティブな内容であれば「行ってみたい」「食べてみたい」という集客効果が望める一方で、ネガティブな口コミは店舗イメージを下げ、来客数減少や売上ダウンにつながるリスクもあります。そのため、「口コミ対策」は飲食店経営者にとって見過ごせない課題となっているのです。

2.口コミ対策が必要となる背景

2-1.消費者の情報収集行動の変化

スマートフォンの普及やSNSの台頭により、消費者はいつでもどこでも気軽にお店の情報を調べられるようになりました。特に外食産業は「一度きりの失敗も避けたい」という心理が働きやすいため、初めての店には慎重になりやすい傾向があります。その際に参考にされるのが、既にその店を利用した人の口コミ情報です。
こうした消費者の行動変容により、飲食店は「自店がネット上でどう評価されているか」を把握し、適切に対処しなければ競合に埋もれてしまうリスクが高まっています。

2-2.口コミサイト・SNSの急速な拡散力

ポジティブな評判が拡散されれば大きな集客効果を生む一方で、ネガティブな評判や誤った情報が拡散されるリスクも無視できません。飲食店に対するクレームや炎上事例がニュースサイトやSNSで取り上げられ、一気に全国に知れ渡ることも珍しくありません。こうした急速な拡散力は一度負のイメージがついてしまうと回復に大変な労力を要し、店舗経営にとって大きな痛手となるでしょう。

3.口コミサイトやSNSに多いトラブル事例

3-1.味の好みや接客に対する低評価

飲食店を利用するお客さまの満足度は千差万別です。味の好みやサービスの基準は人それぞれのため、ある人にとっては「濃い味でおいしい」と感じた料理が、別の人にとっては「しょっぱすぎる」とネガティブ評価されることがあります。接客面でも「笑顔がなかった」「言葉遣いが気になった」という主観的な理由で低評価がつけられるケースが少なくありません。

3-2.事実と異なる噂や悪意のある書き込み

稀に、競合店の関係者や個人的な恨みを持つ人物が、意図的に虚偽情報を投稿することもあります。こうした悪意のある口コミは真偽を確かめることが難しく、店舗の信頼や売上を大きく損ねる原因となります。また、店舗側に問題がないにもかかわらず、「生焼けだった」「ゴキブリがいた」など事実と異なる噂が一人歩きして拡散されるケースもあり、早期の発見と対策が欠かせません。

3-3.炎上によるマスコミ報道と長期的ダメージ

飲食店が炎上すると、「衛生面のずさんさ」「従業員の不適切行為」など、事実関係があやふやなままにマスコミが取り上げる可能性があります。一度大きく報道されてしまうと、ネガティブなイメージが長期間にわたって残り、後から正しい情報を発信しても信用回復に時間がかかります。

4.飲食店が取り組むべき口コミ対策のポイント

4-1.定期的なモニタリング

口コミ対策の第一歩は「ネット上で何が書かれているか」を把握することです。店舗名や周辺キーワードを検索し、食べログやぐるなび、Googleビジネスプロフィール、SNSなどで言及がないか定期的にチェックしましょう。想定外の名前(通称や略称)で書かれている可能性もあるので、複数パターンでの検索も重要です。

モニタリングのコツ

  • Googleアラートを活用
    店舗名や関連キーワードを登録しておけば、新しい記事や投稿が検出されるたびに通知を受け取れます。

  • SNS検索の定期実施
    InstagramやX(旧Twitter)など、主要SNSでハッシュタグやキーワード検索を行い、店舗関連の投稿を確認します。

  • 口コミサイトの管理画面を活用
    食べログやぐるなびでは店舗会員として登録しておくことで、新着口コミをすぐに把握しやすくなります。

4-2.ネガティブ口コミへの誠実な対応

ネガティブな評価を受けると、感情的になって反論したくなることもあるかもしれません。しかし、店舗が感情的に対応するとさらに火に油を注ぐ結果になりかねません。まずは冷静に事実関係を確認し、必要に応じて下記の手順で誠実に向き合いましょう。

  1. 事実確認

    • スタッフや状況をよく確認し、口コミの内容に誤りや行き違いがないかを把握。

    • 誰がいつ対応したのか、問題点は何だったのかを明らかにする。

  2. 返信やメッセージの投稿

    • 口コミサイトに店舗アカウントで返信できる場合、感情的にならず、お詫びや事実の説明を淡々と行う。

    • 「今後の改善策を検討している」「貴重なご指摘をありがとうございます」といった前向きな姿勢を示し、第三者が見ても誠意が伝わる内容とする。

  3. 個別のやり取りへ誘導

    • 必要に応じて「詳しい状況を直接お聞かせいただけますと助かります」とし、メールや電話、店頭などでのフォローを呼びかける。公の場で詳細を議論するより、個別にやりとりしたほうが誤解を解きやすい場合もある。

4-3.悪質な書き込みへの法的対応の検討

誹謗中傷や明確に虚偽の情報が書かれている場合は、放置しておくと店舗イメージが長期的に損なわれる可能性があります。削除依頼や法的措置を視野に、以下のステップを検討しましょう。

  • 口コミサイトのガイドライン確認
    食べログやぐるなびなど各サイトには投稿ポリシーが定められており、プライバシー侵害や虚偽の書き込みは削除対象となり得ます。該当書き込みが削除要件を満たす場合は、運営に削除依頼を行います。

  • プロバイダ責任制限法に基づく対応
    投稿者が特定できない場合は、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報開示請求を検討する方法もあります。ただし、手続は複雑で費用もかかるため、必要に応じて弁護士など専門家に相談すると安心です。

5.ポジティブな口コミを増やす施策

ネガティブな口コミへの対処だけでなく、ポジティブな口コミを積極的に増やすことで、総合評価を高めることができます。そのためには、「実際の店舗体験」に加えて、お客さまが「口コミを書きたい」「誰かに薦めたい」と思うような魅力を感じてもらう工夫が必要です。

5-1.顧客満足度向上とリピーター戦略

味・接客・雰囲気など、店舗運営の基本的な品質を高めるのは言うまでもありませんが、特に口コミ投稿につながるポイントとしては次のような工夫が有効です。

  • スタッフ教育・接客研修
    笑顔での挨拶や丁寧な言葉遣いなど、基本的な接遇をしっかりと徹底。小さな不満や気遣いの不足が、ネガティブ評価につながることを防ぎます。

  • メニュー開発や限定メニューの提供
    季節限定メニューやイベントメニューなど、SNS映えするような食事やスイーツを提供すると、写真投稿を促しやすくなります。

  • 特典やクーポンの配布
    再来店を促すクーポンや特典を用意することでリピーターを獲得し、結果的にポジティブな口コミ投稿の機会が増えるでしょう。

5-2.SNS・口コミサイトへの積極的な情報発信

店舗自らがSNSやブログを活用し、以下のような情報を発信することも有効です。

  • 新メニューや期間限定キャンペーンの告知
    「今週限定で〇〇フェア開催中!」など、タイムリーな発信を行い、ユーザーに興味を持ってもらいます。

  • 調理風景や店内の雰囲気、スタッフ紹介
    飲食店は「どんな人が、どんな想いで作っているか」を見せることで、他店との違いを打ち出しやすくなります。

  • 口コミ紹介・お礼コメント
    実際に寄せられたポジティブな口コミを取り上げ、感謝の気持ちを伝える投稿をすれば、お客さまとのつながりを強化し、さらなる口コミ投稿を促進できるでしょう。

5-3.キャンペーンやインセンティブ

SNS拡散キャンペーン

  • 「特定のハッシュタグをつけてInstagramに投稿してくれた方にドリンクサービス」など、参加のハードルが低いキャンペーンを実施すると、写真付きのポジティブ投稿が増えやすいです。

  • 投稿内容を店舗アカウントがシェアすることで、ユーザーとの双方向コミュニケーションを促せます。

6.口コミ対策における注意点と法的リスク

6-1.サクラ行為や過度なステルスマーケティングの禁止

自作自演による口コミの投稿(いわゆる「サクラ行為」)は、短期的には高評価を得られる可能性がありますが、万が一発覚すれば信頼を失い、顧客離れが一気に進むリスクがあります。また、景品表示法や各口コミサイトの利用規約にも抵触する恐れがあるため、絶対に行ってはいけません。

6-2.プライバシーへの配慮

口コミに対して返信やコメントをするとき、具体的な個人情報を開示するとプライバシー侵害となる可能性があります。また、投稿内容を事細かに反論しようとして、来店時の詳細情報を公開するなどの行為はトラブルを拡大しかねません。返信時にはプライバシーを守りながら、トラブル解決に向けた姿勢を示すことが大切です。

6-3.法的対応のタイミングと専門家の活用

悪質な誹謗中傷や根拠のないデマ、営業妨害につながる書き込みがあった場合、早めに弁護士や専門家に相談するのが賢明です。無闇に当事者同士で話を進めようとすると、話し合いが平行線をたどったり、さらに揉めることもあり得ます。法的措置を検討する際は、店舗の事情を整理し、証拠を確保したうえで専門家のアドバイスに従いましょう。

7.まとめ

飲食店における口コミ対策は、もはや切り離せない重要テーマとなっています。SNSや口コミサイトが普及した現代では、一人の感想や評価が瞬く間に多くの潜在客に届くため、良い口コミは大きな宣伝効果をもたらし、逆に悪い口コミは大きなダメージを与えます。

こうしたリスクとチャンスを踏まえ、飲食店が持続的に成長するためには、以下のポイントを意識して取り組むことが大切です。

  1. 定期的なモニタリング
    ネット上でどんな評価・意見が投稿されているかを常に把握し、早期発見・早期対処に努める。

  2. ネガティブ口コミへの冷静な対応
    感情的にならず、事実を確認したうえで誠実に返信する。改善策を提示し、第三者にも「この店は真摯な姿勢だ」と伝わるよう心がける。

  3. 悪質な書き込みへの迅速な対処
    虚偽情報や誹謗中傷が見られる場合は、口コミサイトのガイドラインや法律を活用し、適切な削除依頼や法的措置を検討する。

  4. ポジティブな口コミを増やす工夫
    味やサービスの向上はもちろん、SNSやキャンペーンを活用して「書きたい」「共有したい」という気持ちを刺激する仕掛けを考える。

  5. 長期的な信頼構築とリピーター獲得
    一過性の施策だけでなく、接客やメニュー開発、スタッフ教育を継続的にブラッシュアップし、ファンを増やす。

飲食店は、人と人とのつながりが生まれる場であり、そのリアルな体験がネットを通じて共有されることで広く認知されます。つまり、ネットの口コミ対策とは、お店自体の魅力やおもてなしを高める作業と不可分のものなのです。ぜひ本記事で取り上げた対策を参考にしながら、店舗のブランドイメージ向上と安定経営につなげていただければ幸いです。

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