
この記事のポイント(3行まとめ)
- 発信者情報開示請求の根拠法は、2025年4月1日施行の情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)。長く「プロバイダ責任制限法」と呼ばれてきた法律が改正されたもの
- 現在の標準ルートは非訟手続である発信者情報開示命令で、従来型の仮処分+開示請求訴訟と使い分ける
- 開示が認められる要件、開示までの期間の目安、開示後にできる損害賠償請求・刑事告訴までの流れを解説している
SNSや匿名掲示板で誹謗中傷の書き込みをされても、民事の損害賠償請求を進めるには相手方の特定が重要です。そのための手段となるのが、サイト運営者や通信事業者から投稿者の氏名・住所などの情報を開示させる「発信者情報開示請求」です。一方、刑事告訴は被疑者不詳で行うこともでき、民事の開示手続を終えることが必須の前提ではありません。刑事対応の可否や告訴期間は、投稿内容と事案に応じて別途検討します。
この手続の根拠法は、長らく「プロバイダ責任制限法」と呼ばれてきましたが、2024年(令和6年)の改正により、2025年(令和7年)4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」に生まれ変わりました。この記事では、現行の情プラ法に基づく発信者情報開示請求の要件と手続、開示までの期間の目安、開示後にできることを、誹謗中傷対策を数多く手がける弁護士が解説します。
発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求とは、インターネット上の投稿によって名誉やプライバシーなどの権利を侵害された人が、その投稿の発信者(投稿者)の特定に必要な情報の開示を、サイト運営者(コンテンツプロバイダ)や携帯電話会社・インターネット接続業者(経由プロバイダ・アクセスプロバイダ)に求める手続です(情プラ法5条)。
開示の対象となる「発信者情報」は、氏名、住所その他の発信者の特定に資する情報として総務省令で定められたもので(情プラ法2条10号)、具体的には氏名・住所のほか、電話番号、メールアドレス、投稿時のIPアドレスとタイムスタンプなどが含まれます。
注意すべきなのは、この手続の対象が「特定電気通信」、すなわち不特定の者に受信されることを目的とする送信(情プラ法2条1号)に限られる点です。誰でも閲覧できるSNSの投稿や掲示板の書き込みは対象になりますが、1対1のメール・LINEのトーク・DMは原則として対象外です。
根拠法は「情プラ法」(旧プロバイダ責任制限法)
プロバイダ責任制限法から情プラ法へ
発信者情報開示請求の根拠法は、2001年(平成13年)に制定された「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)、通称プロバイダ責任制限法です。
この法律は2021年(令和3年)の改正(2022年10月1日施行)で、後述する「発信者情報開示命令」という新しい裁判手続とログイン型投稿への対応が導入され、さらに2024年(令和6年)に成立した改正法(令和6年法律第25号・2025年4月1日施行)で、法律の題名自体が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に改められました。略称は「情報流通プラットフォーム対処法」、さらに縮めて「情プラ法」と呼ばれています。名前は変わりましたが別の法律になったわけではなく、プロバイダ責任制限法が改正・改称されたものです。
現行の情プラ法1条は、次のように定めています。
この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害等があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利について定めるとともに、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項を定め、あわせて、侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図るための大規模特定電気通信役務提供者の義務について定めるものとする。(情プラ法1条)
2024年改正のポイント:大手プラットフォームに削除対応の義務
2024年改正の柱は、条文の後段にある「大規模特定電気通信役務提供者の義務」の新設です。総務大臣が指定した大規模なSNS・掲示板等の運営者(情プラ法2条14号・20条)には、次のような義務が課されました。
- 被害者が削除(侵害情報送信防止措置)を申し出るための窓口・方法を定めて公表すること(22条)
- 削除の申出を受けたら遅滞なく必要な調査を行うこと(23条)。専門的な判断のため「侵害情報調査専門員」を選任すること(24条)
- 申出から原則14日以内の総務省令で定める期間内に、削除したかどうか・しない場合はその理由を申出者に通知すること(25条)
- 削除基準を定めて公表し(26条)、実施状況を毎年公表すること(28条)
これにより、大手プラットフォームに対しては「削除を申し出たのに放置され、回答すらない」という従来の不満に一定の歯止めがかかることになりました。もっとも、この義務はあくまで削除対応の迅速化・透明化に関するものです。投稿者を特定して責任を追及するには、以下の発信者情報開示請求の手続が必要です。
開示が認められるための要件
発信者情報の開示は、投稿者のプライバシー・表現の自由・通信の秘密に関わるため、無条件には認められません。情プラ法5条1項は、開示請求が認められる要件として、次の2つ(特定発信者情報についてはさらに追加の要件)を定めています。
1. 権利侵害の明白性(5条1項1号)
当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
「明らか」とは、権利侵害の事実がうかがわれるというだけでは足りず、不法行為の成立を妨げる事情(違法性阻却事由)の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまで含む趣旨と解されています(最判平成22年4月13日民集64巻3号758頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト参照)。たとえば名誉毀損の投稿であれば、摘示された事実が真実でないことなど、請求者の側で違法性阻却事由がないことまで基礎づける必要があり、ここが開示請求の最大のハードルです。
2. 開示を受けるべき正当な理由(5条1項2号)
当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
投稿者に対する損害賠償請求や刑事告訴の準備のために必要という場合が典型です。報復目的など、権利行使と無関係な目的では認められません。
ログイン型投稿への対応(特定発信者情報)
X(旧Twitter)やInstagramのように、投稿時の通信記録を保存せず、アカウントへのログイン時の記録しか残らないサービスがあります。2021年改正前はこの「ログイン型」の扱いが裁判例で分かれていましたが、現在は、ログイン通信などに係る「特定発信者情報」の開示請求(5条1項3号の補充的要件を満たす場合)と、ログイン通信を媒介した通信事業者(関連電気通信役務提供者)に対する開示請求(5条2項)が条文上認められており、ログイン型サービスでも投稿者の特定が可能になっています。
手続の選択肢:開示命令と従来型(仮処分+訴訟)
現在の標準ルート:発信者情報開示命令(非訟手続)
2021年改正で創設された発信者情報開示命令(情プラ法8条)は、裁判所が決定で開示を命じる非訟手続です。従来の「仮処分+訴訟」を2回繰り返す方式に比べ、1つの手続の中で投稿者の特定まで進められるのが特長で、現在の実務ではこの開示命令ルートが標準になっています。
開示命令を支えるのが、次の2つの付随的な命令です。
- 提供命令(15条):サイト運営者に対し、保有するIPアドレス等から判明する経由プロバイダの名称・住所を申立人に提供させる命令。これにより、サイト運営者からIPアドレスの開示を受ける前に経由プロバイダへの手続に着手でき、手続を直列ではなく並行して進められます。
- 消去禁止命令(16条):手続が終わるまで、プロバイダが保有する発信者情報(アクセスログ等)を消去してはならないと命じるもの。ログの保存期間切れによる特定不能を防ぎます。
サイト運営者への開示命令申立てと提供命令・消去禁止命令を組み合わせ、判明した経由プロバイダに対する開示命令申立てを同じ流れで行い、最終的に投稿者の氏名・住所の開示を受ける、というのが典型的な進行です。開示命令の決定に不服のある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月以内に異議の訴えを提起でき(14条1項)、その場合は通常の訴訟に移行します。
従来型ルート:仮処分+開示請求訴訟
改正後も、従来どおりの方法を選ぶこともできます。すなわち、①サイト運営者に対してIPアドレス等の開示を求める仮処分(発信者情報開示の仮処分)を申し立て、②開示されたIPアドレスから経由プロバイダを特定し、③経由プロバイダに対して氏名・住所の開示を求める訴訟を提起する、という2段階の手続です。
海外事業者の対応状況や、権利侵害の明白性について実質的な争いが見込まれるかどうかなど、事案によっては従来型が適することもあり、どちらのルートを選ぶかは専門的な判断を要します。なお、仮処分を利用する場合は裁判所の定める担保金(目安として10万円〜30万円程度。手続終了後に取り戻せます)が必要です。
開示までの流れと期間の目安
標準的な流れは次のとおりです(期間はあくまで目安です)。
- 証拠保全:投稿のURL・投稿日時・内容のスクリーンショット等を保存
- サイト運営者への手続:開示命令+提供命令・消去禁止命令の申立て(または任意の開示請求・仮処分)
- 経由プロバイダへの手続:判明した携帯電話会社・接続業者に対する開示命令申立て等
- 開示:投稿者の氏名・住所等の開示を受ける
開示命令ルートで順調に進んだ場合で申立てから半年前後、従来型の仮処分+訴訟ルートでは1年程度かかることも珍しくありません。ここで重要なのがスピードです。経由プロバイダのアクセスログの保存期間は一般に3か月〜6か月程度とされており、これを過ぎると投稿者の特定は極めて困難になります。投稿を発見したら、できる限り早く動き出す必要があります。
開示後にできること
投稿者が特定できれば、次の法的措置が可能になります。
- 損害賠償請求(民法709条):慰謝料のほか、投稿者を特定するために要した開示手続の弁護士費用等も、相当因果関係の範囲で損害として請求できる場合があります。示談交渉で解決するケースも多く、再発防止の合意(投稿の削除・今後投稿しない旨の誓約)を含めることも考えられます。
- 刑事告訴:投稿内容に応じて、名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)等での告訴が考えられます。侮辱罪は2022年(令和4年)の法改正で法定刑が引き上げられ、厳罰化されています。
あわせて、投稿自体の削除も重要です。削除の手続については「インターネット上の違法な投稿を削除してもらうには」をご覧ください。
発信者情報開示請求は弁護士にご相談を
発信者情報開示請求は、①ログの保存期間との時間との闘いであること、②「権利侵害の明白性」の立証(違法性阻却事由がないことの主張立証を含む)に法的な専門判断が必要なこと、③開示命令・提供命令・仮処分・訴訟といった複数の手続から事案に合ったルートを選ぶ必要があることから、個人で進めるのが難しい手続です。手続の相手方も、X・Google・Meta等の海外事業者であることが多く、当事者の表記や管轄などの実務にも習熟が必要です。
虎ノ門法律特許事務所は、SNS・匿名掲示板の誹謗中傷対策、発信者情報開示請求・削除請求を数多く取り扱っています。誹謗中傷の投稿にお悩みの方は、手遅れになる前にお気軽にお問い合わせください。
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※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。条文は2026年(令和8年)7月時点の現行法(e-Gov法令検索)に基づいています。期間・費用はいずれも一般的な目安であり、事案により異なります。


