
ネットの誹謗中傷では、民事上の削除・発信者情報開示・損害賠償と、刑事上の警察相談・告訴を目的に応じて検討します。民事で開示が認められたことだけで、犯罪の成立や犯人が確定するわけではありません。
刑事告訴とは
告訴は、犯罪の被害者等が捜査機関に犯罪事実を申告して、処罰を求める意思を示す手続です。被害届とは意味が異なります。名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪で、起訴には原則として告訴が必要ですが、告訴前の捜査が法律上禁止されているわけではありません。
どのような犯罪が問題になるか
公然と事実を摘示して名誉を毀損する行為は刑法230条の名誉毀損罪、事実を摘示せず公然と侮辱する行為は231条の侮辱罪が問題になります。現在の法定刑は、名誉毀損罪が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金、侮辱罪が1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。
投稿内容によっては、脅迫、業務妨害、私事性的画像記録の提供等も問題になります。プライバシー侵害や肖像権侵害というだけで直ちに成立する犯罪はありませんが、それらを含む投稿でも他の犯罪に当たる場合があります。
事実摘示か意見か、誰を指すか、公共性・公益目的、真実性や真実と信じた根拠などを確認します。民事と刑事では、故意・過失や証拠、手続の要件も同一ではありません。
投稿者が不明でも相談できる
投稿者を特定してからでなければ警察に相談・告訴できないという制度ではありません。被疑者不詳でも、犯罪事実を特定し、告訴の要件を整えて提出することができます。受理や捜査、処分は具体的な事情によるため、結果を保証することはできません。
当事務所の実務でも、開示手続で取得した資料を警察への説明に用いることがあります。ただし、開示の完了を待っている間に記録が失われる場合もあるため、必要な警察相談と民事上の記録確保を並行して検討します。
告訴期間と公訴時効を区別する
親告罪の告訴期間は、原則として犯人を知った日から6か月です。投稿された日から一律に6か月ではありません。犯人を知らない間は通常この期間が始まりませんが、公訴時効は別に進みます。
名誉毀損罪と、2022年7月7日以降の侮辱罪の公訴時効は原則3年です。行為日や時効停止等は個別に確認します。「投稿者が不明ならいつまでも告訴できる」「開示後なら必ず間に合う」とは考えないようにしてください。
保存しておく資料
- 投稿全文、画像・動画、前後の文脈
- URL、投稿日時、アカウント名・ID・プロフィール
- 被害の経過、脅迫や連絡の記録、被害を裏付ける資料
- 開示手続をしている場合は申立書、裁判の結果、開示された情報
ログの保存期間は、事業者や通信の種類によって異なります。一律に「3か月」「6か月」と考えて待たず、早期に保存要請や消去禁止命令等を検討します。すでに消去された記録を、命令によって復元できるわけではありません。
通信事業者から開示されるのは、通常、その通信に対応する契約者の情報です。家族共用回線、勤務先・店舗の回線などでは、契約者と実際の投稿者が異なることがあるため、追加の確認が必要です。
開示手続の資料は説明に役立ちますが、犯罪の立証に必要な捜査や、刑事裁判での証拠能力の確認が不要になるものではありません。削除、民事上の請求、刑事上の対応を分けて準備します。
身の危険がある緊急時は110番、警察への相談は#9110です。民事の手続は発信者情報開示請求とは|費用・期間・手続の流れを弁護士が解説、インターネット上の違法な投稿を削除してもらうにはどんな方法がありますか?、誹謗中傷記事を書き込んだ投稿者への損害賠償請求(慰謝料)と示談交渉をご覧ください。
参考資料
法令・公表資料は2026年10月3日に確認しました。個別の投稿についての結論は、内容や証拠、事業者の保有情報によって異なります。




