
発信者情報開示命令は、匿名の投稿者を特定するために必要な情報の開示を、裁判所の決定で命じる手続です。2022年10月に導入され、現在は情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)8条以下に定められています。
開示が認められるための条件
名誉毀損、プライバシー侵害などの権利侵害が明らかであることと、損害賠償請求等のために情報を得る正当な理由が必要です(5条)。不快な投稿や低い評価というだけでは開示は認められません。投稿の文脈、誰について述べているか、真実性・公益性なども確認します。
サイト側と接続業者側の手続
まず、サイト運営者がどの情報を保有しているかを確認します。氏名・住所が登録されている場合、電話番号から別の調査を検討できる場合、IPアドレス等を手掛かりに接続業者へ請求する場合などがあり、すべての事件で同じ2段階になるわけではありません。
IPアドレス等を手掛かりにする典型例では、サイト運営者への開示命令申立てとともに提供命令を申し立て、判明した接続業者にも開示命令を申し立てます。相手方ごとの申立てを関連づけて進められる制度であり、すべてを1社への1回の申立てで解決するという意味ではありません。
通信事業者から開示されるのは、通常、その通信に対応する契約者の情報です。家族共用回線、勤務先・店舗の回線などでは、契約者と実際の投稿者が異なることがあるため、追加の確認が必要です。
提供命令と消去禁止命令
提供命令(15条)は、サイト運営者から接続業者の名称等を申立人に提供させ、その接続業者への申立て後に必要な情報を事業者間で提供させる仕組みです。サイト側の開示が終わるのを待たず、次の手続を進められる場合があります。
消去禁止命令(16条)は、事業者が保有する発信者情報の消去を禁止するものです。要件を満たす申立てが必要で、開示命令の申立てだけで自動的に発令されるものではありません。
ログの保存期間は、事業者や通信の種類によって異なります。一律に「3か月」「6か月」と考えて待たず、早期に保存要請や消去禁止命令等を検討します。すでに消去された記録を、命令によって復元できるわけではありません。
SNSのログイン情報を求める場合
投稿時のIPアドレス・通信日時、登録電話番号・メールアドレスなど、保有されている情報と特定につながる経路を確認します。投稿時の情報で特定できない場合などには、ログイン通信等に関する「特定発信者情報」の開示を検討しますが、情プラ法5条1項3号の追加要件や、投稿との関連性が必要です。どのSNSでも同じ種類の情報が必ず保有・開示されるとは限りません。
最高裁令和6年12月23日判決は、投稿とログインの間隔などの具体的事情に基づいて、開示対象となる通信を判断しました。時間的近接性しか判断材料がない場合の説明を、すべての事件で「直前の1回だけ」「21日以内」とするルールとして扱うことはできません。詳しくはインスタのログイン情報開示|最高裁令和6年判決を解説をご覧ください。
意見照会・決定・異議の訴え
事業者は原則として発信者の意見を聴きます(6条)。発信者が不同意と回答しても、それだけで開示が阻止されるわけではありません。裁判所は権利侵害や開示の要件を判断します。
開示命令の決定に不服のある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月以内に異議の訴えを提起できます(14条)。そのため、決定が出るまでの期間と、最終的に情報が開示されるまでの期間は分けて考える必要があります。
期間・費用と相談時に用意する資料
所要期間は、送達、意見照会、相手方の対応、争点などによって変わります。費用も相手方や申立件数、手続によって異なり、仮処分を利用する場合には担保金が必要になることがあります。発信者情報開示請求の費用|内訳・料金の目安・相手に請求できるかで当事務所の料金を案内しています。
- 投稿本文・画像・動画と前後の文脈
- 投稿URL、アカウント名・ID、表示された投稿日時と時刻帯
- ご本人を指していると分かる資料
- 虚偽の内容や被害状況を説明できる資料
投稿の削除と投稿者の特定は別の手続です。削除を急ぐ場合にも証拠を先に保存し、特定を希望する場合はログの確保を並行して検討します。
参考資料
法令・公表資料は2026年10月3日に確認しました。個別の投稿についての結論は、内容や証拠、事業者の保有情報によって異なります。




