プライバシー侵害とは? 重要判例・個人情報保護のポイント

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弁護士大熊 裕司
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1 プライバシーの侵害とは何か

(1)プライバシーの基本的な考え方

「プライバシーの侵害」とは、端的にいえば、個人の私生活上の事実や情報が、本人の意思に反して他人に知られたり、みだりに公表されたりすることによって、不快感や不利益が生じることを指します。プライバシーの保護は、憲法上の人権保障や民法上の不法行為に関する規定(民法709条・710条等)に基づいて認められると一般的に解釈されています。

もっとも「プライバシー」という用語は、裁判例上、常に明示されているわけではありません。最高裁判所の判決でも「プライバシー」という言葉自体を使わずに、「私生活上の平穏を害されない法的利益」「私生活の事実がみだりに公開されない法的利益」などと表現することがあります。いずれにせよ、「他人に知られたくない情報を勝手に公開されることで精神的苦痛を受ける」ことが問題になる点は共通しています。

(2)「個人情報」との関係

プライバシー侵害というとき、現代では「個人情報」との関連で語られることが多くなっています。個人情報保護法は、個人情報を企業や団体などが取り扱う場合のルールを定めたものですが、そこに規定があるからといって、ただちにプライバシー侵害が成立するわけではありません。あくまで実際の裁判では、流出した情報の性質(たとえば氏名・住所・電話番号・メールアドレス・生年月日・職業・病歴など)や、流出の方法・規模・結果などを総合的に判断したうえで「不法行為(民法709条)が成立するか」「プライバシーを保護すべき法的利益が侵害されたか」が決められています。

2 関連する裁判例とそのポイント

プライバシー侵害や個人情報の流出をめぐる事案はいくつも存在しますが、ここではいくつかの代表的な判例を紹介します。

(1) エステティックサロンに関する裁判例(東京高判平成19・8・28判タ1264号299頁)

エステティックサロンを経営する企業が、顧客の氏名・住所・電話番号・メールアドレス・年齢・職業などを不正に外部へ流出させた事案や、ウェブサイトの管理を外注していた会社の従業員による誤操作・不正アクセスなどによって、顧客情報がインターネット上にさらされた事案が問題となったものです。この一連の裁判例では、以下の点が争点となりました。

1. 流出した情報は「プライバシーとして法的に保護される情報」か

住所や電話番号などは一般的にも「他人に知られたくない」情報であると判断され、個人の私的領域に属する情報としてプライバシー保護の対象になり得ると認定されました。

2. 企業側に注意義務違反や過失があったか

外部業者にウェブサイトの管理を委託している場合でも、最終的には情報を保有・管理している企業が顧客情報保護のために相応の注意を払う義務があるとみなされました。委託先が不正アクセス対策を怠ったことが原因で流出が起こった場合でも、情報の管理主体である企業自身が民法上の使用者責任(民法715条)や不法行為責任(同709条)を負う可能性があることが示されています。

3. 損害賠償額(慰謝料)に関する一般的考え方

本件判決においては、プライバシー侵害が認められるか否かと併せて、精神的苦痛に対する賠償が争点となりましたが、判決文そのものに特異な算定基準が示されているわけではありません。一般的に、プライバシー侵害における慰謝料は、

  • 漏洩した情報の秘匿性(例:病歴、金融情報、施術歴などのセンシティブな情報か否か)、

  • 漏洩の規模・態様(一度きりの漏洩か、二次流出・拡散が広範囲に及んだか)、

  • 企業(または管理主体)の過失の程度(セキュリティ対策や監督義務を尽くしたか、漏洩後の対応は適切か)、

  • 被害者が受けた具体的損害(嫌がらせや詐欺被害が発生したか、不快感や不安感だけにとどまるか)

などを総合的に考慮して金額が認定されることが多いといえます。判例上は、数千円から数万円程度の事例もあれば、漏洩情報の性質や被害の深刻さ次第で数十万円が認められるケースもあります。

このように、プライバシーの侵害による精神的苦痛の損害賠償額は、判決ごとに事情を総合して判断されるため、一律の基準ではなく、流出した情報の内容や拡散状況・管理体制など各要素が大きく影響する点に留意が必要です。

(2)早稲田大学事件(最二小判平成15・9・12民集57巻8号973頁 )

大学が主催する講演会へ参加申し込みをした学生の個人情報(学籍番号、氏名、住所、電話番号など)が外部へ流出し、その結果としてプライバシー侵害が問題になった事例です。最高裁判所は、大学などの管理者が本人の同意なく個人情報を漏洩する行為は、不法行為に当たる可能性があるとしました。もっとも、事件の内容や漏洩した情報の範囲によっては「社会一般の感受性からみて、どの程度の秘密性があるか」が争点になります。

この判例では、「本人が他人に知られたくないと考えるのが自然であり、一定の期待が保護されるべき情報」であれば、プライバシー侵害として法的保護の対象となると判断しています。大学側は個人情報の開示にあたって、学生の正当な利益に配慮した運用をすべきであったにもかかわらず、それを怠った場合、不法行為責任を負うという点が示されました。

(3)ヤフーBB事件(大阪地判平成18・5・19判時1948号122頁 など)

インターネット接続サービス「Yahoo! BB」の顧客情報が外部へ漏洩し、多数の利用者が精神的苦痛を被ったとして損害賠償請求を起こした事件です。裁判所は「大規模に個人情報を取り扱う企業ほど、厳格な管理体制を敷く義務がある」との前提から、実際にどの程度セキュリティ対策を講じていたか、事故後の対応は適切だったかといった点を検討しました。

結果として、企業の管理義務違反(過失)が認められたものの、漏洩した情報の性質(機微性)や、利用者に生じた実害の立証状況などを総合的に判断した結果、利用者一人あたり5,000円の慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)が認められたことで知られます。この金額は決して高額とはいえないものの、「プライバシー侵害それ自体による損害」が裁判所で一定程度認められた例として注目されました。

もっとも、この裁判例の評価額は本件特有の事情にも左右されており、プライバシー侵害に基づく慰謝料額が常に5,000円程度に限定されるわけではありません。実際の金額は、漏洩した情報の機微性、漏洩の規模・態様、企業の過失の度合い、被害者への具体的な影響などを総合的に考慮して判断されるため、事案によって数千円〜数十万円と幅があります。

(4)公安テロ情報流出事件(東京地判平成26・1・15判時2215号30頁 など)

本事件は、警視庁公安部の職員が取り扱っていた国際テロ対策関連資料が大量に流出し、インターネット上で拡散された事例として知られています。公開された文書には、テロリストと疑われる人物だけでなく、まったく無関係の一般市民の情報まで含まれており、極めてセンシティブな個人情報(氏名、国籍、宗教の種類など)が詳細に記載されていました。

裁判では、流出した情報の「秘匿性の高さ」や「名誉・信用の毀損(きそん)につながる可能性」、そして国家機関が十分な管理体制をとらなかった過失が厳しく問われました。結果として、プライバシーが重大に侵害されたとして、一人あたり50万円相当の損害賠償が認められた例があります。これは、大量かつ機微な情報が流出した点や、情報が世界中に拡散された点が重視されたといえます。

3 プライバシー侵害が認められる要件

過去の判例に照らすと、プライバシー侵害が認められるためには主に次の要素が考慮されます。

  1. 秘密として保護される利益の存在

    • 漏洩された情報が、「一般に公開されたくない」「本人が隠しておきたい」と考えるのが通常である私的情報かどうか。たとえば氏名・住所・電話番号などの基本情報だけでなく、趣味嗜好や病歴、購買履歴なども、社会通念上「知られたくない」とされるものであれば該当する可能性が高くなります。

  2. 本人が知られたくないという意思(期待可能性)の有無

    • 過去の裁判例でも、「本人が自分の情報が開示されないと期待するのが自然であると思われる情報は、プライバシーとして保護される」といった判断が示されます。エステサロンの施術歴や講演会への参加申し込みなどは、個人としては他人に知られたくないと考えるのが普通だろうと認定されています。

  3. 企業や管理者側の過失(注意義務違反)

    • プライバシー侵害に関する紛争では、行為者(または情報を管理すべき立場にあった者)の行為について、主に次の点が問題となります。

      1. 過失
        違法な結果が生じる可能性を認識し得たにもかかわらず、必要な注意を怠ったか。

      2. 重過失
        通常の注意義務を大きく逸脱した管理体制の不備など、著しい落ち度があったか。

企業や組織が当事者となる場合には、セキュリティポリシーの策定・実施状況や、従業員・委託先への監督が適切になされていたかどうかが特に検討されます。また、被害者が慰謝料の増額を求める際には、管理者側に重過失があったと評価されるような事情(極端にずさんな情報管理など)を主張することが多い点にも留意が必要です。

4.損害の発生

  • 漏洩した結果、名誉や感情に対してどの程度の苦痛が生じたかを判断します。たとえば、住所や電話番号がネット上に公開され、繰り返し嫌がらせの電話が来るなど具体的被害があれば、比較的高額の慰謝料が認められる可能性が高まります。一方、「単に流出した事実があるだけで、大きな実害がない」と判断されれば、請求が認められるとしても慰謝料は低額になることがあります。

4 企業側・組織側がとるべき対応

(1)事前のセキュリティ対策

個人情報保護法の遵守はもちろんのこと、パスワードの適切な管理、外部からのアクセス制限、ネットワークやサーバーのセキュリティ強化など、実務上の対策が必須です。特に大企業や多くの顧客を抱えるサービスでは、漏洩が起これば利用者数に比例して損害賠償額も膨大になる可能性があります。

(2)漏洩が起きた後の対応

もし情報漏洩が生じてしまった場合、被害拡大を防ぐための迅速な対策が求められます。具体的には、

  • システムの遮断やアクセス制限の強化

  • 被害者への早期連絡

  • 再発防止策の公表と実施
    などが挙げられます。裁判例でも、漏洩後に会社がとった対応が「誠実であったか」「被害を最小限に抑える努力をしたか」が損害賠償額を算定するうえで参照されることがあります。

(3)ガイドラインや業界自主規制との関係

国や業界団体、監督官庁が定めるガイドラインや自主規制にはセキュリティ対策の具体例や監督基準が示されています。裁判所は、企業がこれらのガイドラインを守っていたかどうかを、注意義務違反の有無を判断する際の材料とすることがあります。つまり、ガイドラインを満たす体制を整えていれば、一定の減免が認められる可能性がある一方、守っていなければ過失が否定しがたくなる場合があるというわけです。

5 損害賠償額(慰謝料)の算定

前述のとおり、プライバシー侵害による慰謝料の金額は、漏洩した情報の性質、漏洩の規模・方法、そして企業側の対応などの事情によって大きく変動します。

たとえば、TBC事件やヤフーBB事件では、一人あたり数千円から数万円の範囲で慰謝料が認められた事例があります。一方で、(前記の判例)においては、開示されてしまった情報が非常にデリケートであるうえに広範囲に流出したことなどから、一人あたり500万円相当の賠償が認められた例も存在します。

さらに、重大な二次流出(不正取得やネット掲示板・SNSへの転載など)が生じて被害が拡大すれば、賠償額がいっそう高額になる可能性があります。逆に、ほとんど被害らしい被害が認められない場合には、慰謝料自体が否定されることもあるため、個別事案ごとの具体的事情が重要な判断要素となります。

6 まとめ

以上のとおり、プライバシーの侵害とは、「他人に知られたくない私生活上の情報を勝手に公開されることで、不快感や不利益を被る」という状況をいい、裁判所は情報の性質や当事者の期待可能性、漏洩の規模、企業など管理者側の注意義務違反などを総合的に判断して、不法行為責任の成否や損害賠償額を決定します。

  • 情報の性質:本当に秘匿性が高い情報(医療情報など)なのか、比較的一般的な個人情報(名前・住所など)なのかで評価は異なる。

  • 侵害状況(漏洩の態様):ネット上で広範囲に拡散された場合や二次流出が生じた場合は、被害拡大を理由に高額の慰謝料が認められる可能性が高まる。

  • 企業側の過失:システム管理や委託先の監督がずさんであったかどうか、漏洩後の対応が誠実であったかなどが重要視される。

  • 結果(被害の程度):嫌がらせや詐欺被害などの具体的二次被害が生じた場合は、慰謝料の増額が見込まれる。

企業や団体、あるいは個人が、他人の個人情報を扱うときには、こうしたリスクを十分に認識し、適切なセキュリティ対策や教育・マニュアル整備を行うことが不可欠です。裁判例の趨勢としては、プライバシー情報をみだりに扱うことへの厳格な姿勢が強まっているため、安易な管理のままサービスを運営すると、万が一漏洩が起こった際には高額の賠償責任を負うおそれがある点に注意が必要です。

もっとも、被害者側が請求を行う場合でも、「どの情報が、どのように漏洩したか」「被害や精神的苦痛は具体的にどの程度生じたか」を立証する必要があります。実害が立証しにくい場合は、認められる慰謝料が低額にとどまることもあります。

いずれにせよ、プライバシー侵害をめぐる争いは、現代社会におけるインターネット利用の拡大や個人情報の広範な取り扱いによって、今後ますます増えることが予想されます。事業者や個人がプライバシーを侵害しないよう細心の注意を払い、被害が生じた場合には迅速かつ誠実な対応を取ることが、トラブル防止の観点から極めて重要です。

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