はじめに
「昔、逮捕されたときの報道記事がSNSに転載されて、いまだに残っている。名前で検索すると出てきてしまう。事件からもう何年も経つのに、消すことはできないのか」
こうしたご相談は、当事務所でも数多くいただきます。報道機関のウェブサイトの記事は一定期間で削除されることが多い一方、その記事を転載したSNS投稿は、誰にも削除されないまま何年も残り続けることが少なくありません。
本記事では、逮捕から約8年が経過したツイッター上の逮捕記事ツイートについて、最高裁として初めてツイート削除請求の判断枠組みを示し、削除を認めた最判令和4年6月24日(第二小法廷・令和2年(受)第1442号・投稿記事削除請求事件)(判決文PDF・裁判所ウェブサイト)を取り上げます。この判決の最大のポイントは、グーグルの検索結果削除に関する平成29年最決が採用した「公表されない法的利益の優越が明らかな場合」という厳格な限定を、ツイッターの投稿削除の場面では採らなかったことです。
なお、判決当時のサービス名は「ツイッター(Twitter)」で、現在は「X」に名称が変更されていますが、本記事では判決文の表記に合わせて「ツイッター」と記載します。
前提知識の整理
前科・逮捕歴を「公表されない利益」と削除請求の法的構成
- プライバシーとしての前科・逮捕歴:前科や逮捕された事実は、その人の名誉・信用に直接かかわる情報であり、みだりに公表されない利益が法的保護に値するとされてきました。リーディングケースであるノンフィクション「逆転」事件(最判平成6年2月8日・民集48巻2号149頁(判決文PDF・裁判所ウェブサイト))は、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる」と判示し、公表の適法性を比較衡量で判断する枠組みの源流となりました。
- 削除請求の法的構成:インターネット上の投稿の削除請求は、名誉権・プライバシーといった人格権に基づく妨害排除(差止め)請求として構成されます。損害賠償(過去の侵害への金銭的救済)とは異なり、現に続いている侵害状態の排除を求めるものです。相手方は投稿者本人に限られず、投稿を管理するプラットフォーム運営者にも請求できます。
平成29年グーグル最決の「明らか」基準とは
グーグルの検索結果からの削除については、最決平成29年1月31日(平成28年(許)第45号・民集71巻1号63頁(決定文PDF・裁判所ウェブサイト))が判断枠組みを示しています。同決定は、「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」こと、検索事業者による検索結果の提供が「現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」ことを指摘したうえで、次のとおり判示しました。
その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
比較衡量の結果、公表されない法的利益が「優越する」だけでは足りず、優越することが「明らか」といえて初めて削除が認められる――検索事業者の表現行為性と情報流通基盤としての公益的役割を重視した、削除請求者側に厳しい基準です。この「明らか」要件が、検索事業者以外のプラットフォーム、たとえばSNS運営者に対する投稿削除請求にも及ぶのか。それが本判決の最大の争点でした。
判例の紹介と分析:最判令和4年6月24日
事案の概要
事案の経過は次のとおりです(※図1参照)。判決文が認定した事実関係を見てみましょう。

上告人は、平成24年4月、旅館の女性用浴場の脱衣所に侵入したとの被疑事実で逮捕された。上告人は、同年5月、建造物侵入罪により罰金刑に処せられ、同月、その罰金を納付した。
この逮捕の事実は逮捕当日に報道され、記事が複数の報道機関のウェブサイトに掲載されました。同日、ツイッター上の氏名不詳者らのアカウントで、この報道記事の一部を転載して逮捕事実を摘示する複数のツイート(本件各ツイート)が投稿されました。その後の経過について、判決文は次の点を認定しています。
なお、報道機関のウェブサイトにおいて、本件各ツイートに転載された報道記事はいずれも既に削除されている。
つまり、元の報道記事はすべて消えたのに、それを転載したツイートだけが残り続けたという状況です。そして、
ツイッターには、利用者の入力した条件に合致するツイートを検索する機能が備えられており、利用者が上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると、検索結果として本件各ツイートが表示される。
という状態でした。上告人は逮捕の数年後に婚姻しましたが、配偶者には逮捕の事実を伝えていません。上告人は、プライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益等の侵害を主張して、ツイッターを運営する会社(判決文では「被上告人」)に対し、人格権ないし人格的利益に基づき本件各ツイートの削除を求めて提訴しました。
一審は認容、原審は棄却――「明らか」基準の適用が分かれ目に
第一審は削除請求を認容しました。ところが原審(控訴審)は、平成29年最決の「明らか」の定式をツイッターの事案にも適用し、請求を棄却しました。判決文が要約する原審の判断は次のとおりです。
被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等に照らすと、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量した結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られると解するのが相当であるところ、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
最高裁の判断枠組み――比較衡量の定式
最高裁は、原判決を破棄し、自ら判断(自判)して被上告人の控訴を棄却しました。削除を認容した第一審判決が確定したことになります。判断枠組みを示した説示は、次のとおりです(本判決の核心部分です)。
個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される(最高裁平成13年(オ)第851号、同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁、最高裁平成28年(許)第45号同29年1月31日第三小法廷決定・民集71巻1号63頁参照)。そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、上告人が、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。
考慮要素(事実の性質・内容、伝達範囲と被害の程度、社会的地位や影響力、投稿の目的や意義、投稿時の社会的状況とその後の変化)は平成29年最決とほぼ共通ですが、結論部分が「優越することが明らかな場合」ではなく「優越する場合」とされている点が決定的に異なります。
「明らか」の限定を否定した説示
最高裁は、原審が採用した「明らか」の限定を、次のとおり明示的に否定しました。
原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない。
あてはめ――「時の経過」を軸とする総合判断
本件へのあてはめも、今後の実務の指針となる重要部分ですので、全文を引用します。
本件事実は、他人にみだりに知られたくない上告人のプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。また、本件各ツイートは、上告人の逮捕当日にされたものであり、140文字という字数制限の下で、上記報道記事の一部を転載して本件事実を摘示したものであって、ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い。さらに、膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない。加えて、上告人は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。
以上の諸事情に照らすと、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。したがって、上告人は、被上告人に対し、本件各ツイートの削除を求めることができる。
投稿時点では公共の利害に関する事実だったことを認めつつ、①約8年の経過、②刑の言渡しの失効(刑法34条の2第1項後段)、③転載元の報道記事の削除、④140文字での速報という投稿の性質(長期閲覧を想定していない)、⑤氏名検索で表示され面識者に伝わるおそれ、⑥上告人が公的立場にないこと――を総合して、削除を認めています。
草野裁判官の補足意見――実名報道の3つの機能
本判決には、草野耕一裁判官の補足意見が付されています。補足意見は、「本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由」の中身を、実名報道の効用として制裁的機能(犯罪者に社会的制裁を加える)、社会防衛機能(犯罪者への警戒を可能にする)、外的選好機能(他人の私生活を知りたいという関心に応える)の3つに分けて検討し、いずれも本件では比較衡量上の社会的利益として大きな重みを持たないと論じたうえで、次のとおり締めくくっています。
・・・現時点においては、本件各ツイートの記述全部に関しても、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越しているといえるであろう。よって、私は、法廷意見に賛成する次第である。
「一般の閲覧に供し続ける理由」の側を機能ごとに分解して重み付けする思考は、削除請求の主張立証を組み立てるうえで大いに参考になります。
平成29年最決との関係――判例変更ではない
注意すべきは、本判決によって平成29年最決が変更されたわけではないことです(※図2参照)。比較衡量という枠組み自体、また考慮要素は両者でほぼ共通であり、本判決は平成29年最決を先例として引用してもいます。

両者を分けるのは、削除請求の相手方の特殊性です。平成29年最決は、検索結果の提供が「検索事業者自身による表現行為という側面を有する」こと、検索サービスが「インターネット上の情報流通の基盤」であることを指摘し、削除がこれらの表現行為・公益的役割への制約となることを「明らか」要件の実質的根拠としていました。これに対し本判決の法廷意見は、ツイッターについて「情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしている」と述べるにとどまり、検索事業者について語られたような表現行為性・情報流通基盤性の説示を置いていません。そのうえで、ツイッターのサービス内容や利用実態を「考慮しても」明らか要件は採れない、としています。
つまり両基準は、削除の対象と相手方の性質の違い――検索結果(情報流通の基盤たる検索事業者自身の表現行為)か、個々の投稿(プラットフォーム上の第三者の投稿)か――に応じて使い分けられる関係にあると理解できます。検索結果の削除請求では、今後も平成29年最決の「明らか」基準が妥当すると考えられます。
実務への影響・ポイント
① 逮捕歴投稿の削除を求める側:X本体への削除請求のハードルが下がった
本判決により、X(旧ツイッター)上の逮捕歴投稿について、運営会社に削除を求める際の要証事項は「優越することが明らか」ではなく「優越する」ことで足りることが明確になりました。互角に近い比較衡量でも、わずかでも公表されない利益が上回れば削除が認められ得るという意味で、削除請求者側のハードルは実質的に下がっています。
主張立証にあたっては、本判決のあてはめが挙げた事情を意識して、次のような事実を積み上げることがポイントになります。
- 時の経過:事件・逮捕からの経過年数。とりわけ罰金納付や執行猶予期間の経過による刑の言渡しの失効(刑法34条の2)は、公共の利害との関わりの低下を示す明確な指標になります。
- 元記事の削除:転載元の報道記事が報道機関のサイトから削除されていること。
- 投稿の性質:速報目的の投稿で、長期間の閲覧を想定したものでないこと(報道記事の単純転載であればなおさらです)。
- 拡散・閲覧状況:特に注目を集めているわけではなくても、氏名検索で表示されること自体が、面識者への伝達可能性として重視されます。検索結果の画面等を証拠化しておくべきです。
- 本人の現在の立場:公的立場になく、平穏な社会生活を送っていること。
もっとも、本判決はあくまで個別の事実関係についての比較衡量の結果であり、「Xは逮捕歴投稿の削除に常に応じる義務がある」といった一般的ルールを立てたものではありません。事件の性質・重大性、経過年数、本人の立場次第で結論は変わり得ます。
② 検索結果削除との使い分け
逮捕歴がネット上に残っている場合の削除戦略としては、大きく(a)投稿・記事そのものの削除(本判決の場面)と、(b)グーグル等の検索結果からの削除(平成29年最決の場面)が考えられます。
- (a)投稿そのものの削除は、本判決により「優越」基準で判断されます。投稿が消えれば、検索結果からも順次消えていきます。可能であればまず投稿自体の削除を目指すのが本筋です。
- (b)検索結果の削除は、依然として「明らか」基準という高いハードルがあります。他方で、多数のサイトに転載が拡散している場合には、個別の削除請求を繰り返すより検索結果への対応が実効的な場面もあります。
被害の実態(どこに・いくつ・どのような形で残っているか)を把握したうえで、両者を組み合わせて設計するのが実務的です。
まとめ
- 最判令和4年6月24日は、ツイッター上の逮捕記事ツイートの削除請求について、公表されない法的利益が閲覧に供し続ける理由に優越すれば削除を求めることができるとし、原審が適用した「優越することが明らか」という限定を否定しました。
- 平成29年グーグル最決の「明らか」基準は変更されておらず、検索事業者の表現行為性・情報流通基盤性という特殊性の有無によって、両基準は使い分けられる関係にあります。
- あてはめでは、約8年の時の経過、刑の言渡しの失効、転載元報道記事の削除、速報目的という投稿の性質、氏名検索での表示、本人が公的立場にないことが決め手となりました。
- 古い逮捕歴投稿に悩む方にとって、X本体への削除請求は現実的な選択肢です。もっとも結論は個別の比較衡量次第であり、事案に即した主張立証の設計が不可欠です。
逮捕歴・前科に関する投稿の削除請求は、経過年数や投稿の性質など、事案ごとの事情の拾い上げが成否を分けます。お悩みの方は、削除請求・発信者情報開示の実務に精通した弁護士にご相談ください。
出典・参考判例
- 最判令和4年6月24日・令和2年(受)第1442号(投稿記事削除請求事件)(判決文PDF・裁判所ウェブサイト)
- Google検索結果削除事件:最決平成29年1月31日・平成28年(許)第45号・民集71巻1号63頁(決定文PDF・裁判所ウェブサイト)
- ノンフィクション「逆転」事件:最判平成6年2月8日・平成1年(オ)第1649号・民集48巻2号149頁(判決文PDF・裁判所ウェブサイト)
参考文献
- 髙原知明「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成29年度〔3〕38頁〜56頁(最決平成29年1月31日の調査官解説)
- 内田貴「インターネット上の口コミの削除請求――その法律構成について」ジュリスト1586号(2023年)74頁
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