「不敬映画」と報じられた監督は名誉毀損で勝てたか――作品批評と制作者個人の名誉(東京地判令和4年7月29日・知財高判令和5年2月7日)

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弁護士大熊 裕司
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自分が作った作品を、雑誌で厳しく批評された。しかも「社会的に許されない」とまで書かれた——。

作品への批評は、どこまでが正当な論評で、どこからが制作者個人への名誉毀損になるのでしょうか。ネット上の作品レビューや炎上が日常化した今、この線引きは、批評する側にとっても、批評される側にとっても切実な問題です。

今回取り上げるのは、公開直前に上映が中止となった映画について、週刊誌が「昭和天皇をモデルとした不敬映画」などと報じたことをめぐり、監督・脚本家が名誉毀損を主張した事案です。裁判所は名誉毀損を否定しました。しかし、記事が映画の脚本を無断で引用した点については、まったく別の権利の侵害を認め、出版社に賠償を命じています。

この記事では、①作品批評が名誉毀損になる境界はどこか、②裁判所がいう「人身攻撃」とは何か、③批評の自由が別の権利によって制約される場面、の3点を整理します。

1 前提知識——名誉毀損は「型」によって要件が変わる

名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させることをいいます。記事がそれにあたるかは、書き手の意図ではなく「一般の読者の普通の注意と読み方」を基準に判断されます(最判昭和31年7月20日・民集10巻8号1059頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。

そのうえで重要なのが、事実を摘示する型と、意見・論評を述べる型とで、責任が否定される要件が違うという点です(最判平成9年9月9日・民集51巻8号3804頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。

  • 事実摘示型……公共の利害に関する事実にかかり、専ら公益を図る目的であって、摘示事実の重要な部分が真実であると証明されれば違法性がありません。真実と証明できなくても、真実と信じるにつき相当の理由があれば故意・過失が否定されます(最判昭和41年6月23日・民集20巻5号1118頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。
  • 意見・論評型……同じく公共性・公益目的があり、前提とした事実の重要な部分が真実であれば、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性を欠きます(最判平成元年12月21日・民集43巻12号2252頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。

作品批評は多くの場合この「意見・論評型」にあたります。つまり争点は、その批評が「域を逸脱」したかどうかに絞られていきます。

事実を摘示する型と意見・論評を述べる型で免責の要件が異なることを示した図
図1 名誉毀損は「型」によって免責の要件が変わる(東京地判令和4年7月29日を基に作成)

2 事案の概要

原告X1は映画監督で、問題の映画の脚本・監督・主演を務めた人物です。原告X2は同じ映画の脚本を共同で手がけた映画監督・脚本家です。

被告は、週刊新潮を発行する株式会社新潮社のほか、映画の製作・配給に関わった大藏映画株式会社とオーピー映画株式会社です。

この映画は成人向けの「ピンク映画」として2018年2月に劇場公開される予定でしたが、公開直前に上映が中止されました。週刊新潮2018年3月8日号は、この経緯を、昭和天皇をモデルとした「不敬映画」であるという趣旨の記載とともに報じました。

原告らは、名誉毀損として新潮社に各220万円、脚本を無断掲載された点について公表権侵害として各110万円などを請求しました。

3 名誉毀損はなぜ否定されたのか

裁判所は問題の記載を4つに分けて検討し、いずれについても名誉毀損の成立を否定しました。中心となったのは、映画を「不敬映画」と評した記載です。

裁判所は、この記載が原告らの社会的評価を低下させること自体は認めました。そのうえで、次の理由から違法性を欠くと判断しています。

公共性・公益目的があること。判決は「広く一般に公開される映画が公開直前に上映中止となることは、社会的には異例の事態であって、それ自体、社会の関心が高いもの」と述べ、公共の利害に関する事実にかかり、専ら公益を図る目的で掲載されたと認めました。

前提事実が真実であること。映画が実質的に昭和天皇をモデルとした成人映画であるという点は、重要な部分について真実であると認定されました。

論評の域を逸脱していないこと。ここが決定的です。判決は「本件映画の監督や脚本を担当した原告ら個人に対し、殊更攻撃するような記載を認めることはできない」として、人身攻撃には及んでいないと判断しました。

残る3つの記載についても、原告X1自身が事実を否定しているという趣旨の記載であるから社会的評価を直ちに低下させるものではない、あるいは、業界関係者や映画会社社長から直接聞いた話として重要な部分が真実であり、少なくとも真実と信じるにつき相当の理由がある、として、いずれも責任が否定されました。

要点は、批評の矛先が「作品」に向いている限り、表現が強くても名誉毀損になりにくいということです。「不敬」「社会的に許されない」という強い言葉が使われてもなお違法とされなかったのは、それが作品の評価にとどまり、監督個人の人格や素行を攻撃する記載ではなかったからです。

名誉毀損は不成立、脚本の公表権侵害のみ成立、期待権侵害等は棄却という争点別の結論一覧
図2 争点ごとの結論――認められたのは公表権侵害だけ

4 それでも出版社が敗れた点——脚本の公表権

もっとも、この事件は出版社の全面勝訴では終わりませんでした。記事が映画の脚本を原告らに無断で掲載した点について、著作者人格権のひとつである公表権の侵害が認められたのです。

出版社側は「試写会で映画を上映しているのだから、脚本もその時点で公表されている」と主張しました。これに対する裁判所の判断は、二段構えになっています。

まず、翻訳物についての規定をそのまま持ち込むことは否定しました。判決は「著作権法4条3項は、翻訳物の公衆への提示等を原著作物の公衆への提示等と同視して、翻訳物が公表された場合には、原著作物も公表されたものとみなす旨規定しているところ、翻案物は、翻訳物よりも、原著作物からの創作的表現の幅が広いといえるから、脚本の翻案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示等された場合であっても、上記脚本が公表されたものとみなすのは相当ではない」と述べています。

しかし裁判所はここで止まらず、別の理由づけによって、映画の上映が脚本の公表にあたり得ること自体は認めました。すなわち「脚本の翻案物である映画が、脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、上記脚本は、公表されたものと解するのが相当である」としたのです。

そのうえで本件の勝敗を分けたのは、試写会が「公衆」向けだったかどうかでした。判決は「本件映画は、少数かつ特定の者に対し上映されたにとどまるものといえる。したがって、本件試写会で本件映画を上映する行為は、公衆に提示されたものとはいえない」と認定しました。試写会の参加者は映倫の審査委員と映画会社関係者が中心で、外部の参加者はごく少数だったためです。

結果として、脚本は未公表のままであり、これを無断で掲載した行為が公表権侵害にあたるとされました。

控訴審はさらに、報道目的であっても公表権は制限されないことを明言しています。「著作権法41条は、著作権の制限に関する規定(同法第2章第3節第5款)であり、現に、同法50条は、『この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。』と定めるところであるから、本件脚本が報道の目的で利用される場合であっても、本件脚本に係る控訴人らの公表権が制限されると解することはできない」というのがその判示です。

認容額は、新潮社に対し原告ら各自に33万円(慰謝料30万円+弁護士費用3万円)でした。なお、映画会社2社に対する請求(上映されることへの期待権の侵害、映画データ廃棄による人格権の侵害、著作権譲渡契約の解除など)は、いずれも排斥されています。控訴審も原判決を維持し、控訴・附帯控訴をいずれも棄却しました。

翻訳物のみなし規定・映画上映による公表・試写会の公衆性という3段階の判断過程を示した図
図3 脚本は「公表」されていたか――勝敗を分けた公衆性

5 実務へのポイント

批評する側は、評価の対象を作品そのものに保つことが最大の防御になります。作品の出来や社会的当否を論じることと、制作者個人の人格・素行を攻撃することの間には、明確な線があります。あわせて、取材源から直接聞いた内容とその経緯を記録しておくことが、真実相当性の立証を支えます。そして本件が示すとおり、名誉毀損をクリアしても、未公表の資料を無断で使えば著作者人格権の問題が別に立ち上がります。報道目的であることは公表権の抗弁になりません。

批評された側にとっては、作品への論評そのものを違法とさせるハードルは高いのが現実です。争うのであれば、記載が作品評価を離れて個人攻撃に及んでいないか、あるいは公表権・プライバシー権など別の権利の侵害が同時に生じていないかに着目するほうが、実効的な救済につながる場合があります。本件で原告らが賠償を得たのも、名誉毀損ではなく公表権の側でした。

6 まとめ

本判決は、作品への強い批評が名誉毀損とされる境界を、「人身攻撃に及び、意見ないし論評としての域を逸脱したか」という基準で具体的に示したものです。「不敬映画」という表現ですら、作品評価にとどまる限り違法とされませんでした。

他方で、批評の自由が無制限ではないことも同時に示されています。未公表の脚本を無断で掲載する行為は、報道目的であっても公表権の侵害となりました。表現をめぐる紛争では、名誉毀損という入口だけでなく、著作者人格権をはじめとする別の権利の成否まで視野に入れる必要があります。

インターネット上の批評・レビューで被害を受けている方、あるいは自らの発信が名誉毀損にあたらないか不安のある方は、早めに誹謗中傷対策の実務に精通した弁護士にご相談ください。

出典・参考判例

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的な対応については、弁護士にご相談ください。

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